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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和52年(ネ)36号 判決

控訴人 明電商事株式会社

右代表者代表取締役 上野明則

右訴訟代理人弁護士 堤敏恭

被控訴人 三上機工株式会社

右代表者代表取締役 三上彰

右訴訟代理人弁護士 加藤茂樹

同 加藤礼一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「1 原判決を取消す。2 福井地方裁判所武生支部が昭和四九年(手ワ)第一三号約束手形金請求事件につき昭和四九年一〇月二日言渡した手形判決を認可する。3 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決第二丁裏末行の「としても、」とある次に「被控訴人の代表者で会長の三上金右エ門、代表者で社長の三上彰、控訴代表者上野明則、訴外北水工業株式会社専務の訴外福島宏の会談に基づき」を付加し、同第三丁表一行目「の見返り等として」とあるを、「と交換に振出された約束手形金を含む同社の被控訴人に対する全債務の弁済にかえて」と訂正する。

2  同第三丁表二行目の次に「たとえ、本件手形になされた訴外会社の裏書きが控訴人に手形上の権利を取得させるためのものではなく手形の割引を受ける便法にすぎなかったものとしても、その後、控訴人のなした裏書に基づき爾後の手形取得者から控訴人が手形上の責任を問われ自らの出捐によってこれを買戻したのであるから、手形上の記載に基づいて振出人の手形上の義務の履行を求め得ることは手形理論上当然であり、さらに、控訴人の裏書が実質上手形保証の趣旨に解すべきものとすれば実質上の保証人たる控訴人は自己の求償しうべき権利の範囲内で、民法第五〇〇条、第五〇一条により債権者たる銀行の有していた一切の権利を行使しうる道理であるから、振出人である控訴人に対する本件請求が許されないとする理由はない。

理由

一  当裁判所は控訴人の本件請求は失当であり、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決第五丁表四行目の「その」とある次に「直後」を、同七行目の次に「訴外会社の倒産直後の同年一〇月八日ころその善後策のために被控訴人の代表取締役で会長の三上金右エ門、同代表取締役社長の三上彰、訴外会社の専務取締役福島宏、控訴人の代表者で訴外上野金一郎の弟である上野明則が集って協議した際、三上彰が右のとおり被控訴人振出しの約束手形二通を受領した直後に訴外会社が倒産し、代表者上野金一郎が姿をくらました状況から同人を詐欺で告訴すると強く主張したところ、控訴代表者は約束手形二通は割引きした気配も第三者の手に渡された様子もないので見つかり次第被控訴人に返す旨確約したこと、もっとも」を付加する。

2  同第五丁裏六行目の「右原告の」とあるところから同七行目の「割引いたこと」とあるまでを「本件手形の第一裏書欄に自社の白地裏書きをしたうえ、右控訴代表者上野明則の包括的了承のもとに、控訴代表者から控訴人の手形行為の代行権限を授与されていた控訴代表者の妻をして本件手形の第二裏書欄に控訴代表者名義の裏書きをさせたうえ、これを訴外会社代表者上野金一郎が前記福井銀行京町支店へ持参して割引きを受けたこと」と、同第六丁表二行目から三行目にかけて「には訴外会社の裏書記載があり、その」とあるを「の訴外会社記載の前記裏書欄の」と訂正する。

3  同第六丁裏一行目の「によると、」とある次に「訴外会社と控訴人との間には本件手形譲渡の原因となる取引は全く存せず、」を、同八行目の次に「なお、控訴人は、自己の後者にあたる手形取得者から手形裏書人としての責任を問われ自らの出捐によって本件手形を買戻したものであり、買戻しによる本件手形の所持人として本件手形の振出人である被控訴人に対し本件手形金の支払いを請求しうると主張するが、控訴人は自らの出捐によって本件手形を買戻しその所持人となったとしても、それは控訴人が本件手形に裏書きしたことによる遡及義務の履行あるいは銀行との取引契約中の買戻しの特約ないし商慣習に基づく債務の履行の結果にすぎず、控訴人と前者たる訴外会社間には前記第一裏書の原因というべき実質関係がない以上、やはり訴外会社に対する人的抗弁を切断してまで控訴人を保護する理由はない。

また、控訴人は裏書の性質上本件手形における控訴人の裏書をもって手形金の支払保証の趣旨を有するものと解すれば、控訴人は自己の求償しうべき権利の範囲内で民法第五〇〇条、第五〇一条により本件手形債権者たる福井銀行の有していた一切の権利を行使しうるからその振出人である被控訴人に対し本件手形金の請求をなしうると主張し、控訴人の裏書きが手形金の支払を保証する経済的効果をもっていることを否定することはできない。しかし、それは実質的、機能的に観察した場合に控訴人の後者からみれば控訴人が手形保証をしたのと同様な経済的機能的意味を有するというに過ぎず、法的には通常の裏書人の様利義務を負うに止まり、保証人あるいは手形保証人としての権利を有するものではなく、民法第五〇〇条、第五〇一条はもとより手形法第三二条第三項によっても後者である福井銀行の有していた人的抗弁の切断された本件手形債権を取得するものではないから、控訴人の右主張も理由がない。」を付加する。

4  同第八丁表一行目の次に「さらに、前記認定事実によれば、控訴代表者は本件手形に訴外会社の裏書きおよび控訴人の裏書きがなされた頃に被控訴代表者に対し、本件手形が見つかり次第これを被控訴人に返還する旨確約していたのであるから、右返還義務を履行することなくなした本件請求は権利の濫用に属するものであってこの点からも理由がない。」を付加する。

二  よって、控訴人の請求を認容した本件手形判決を取消しその請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡悌次 裁判官 富川秀秋 西田美昭)

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